学校の先生と徹底的に向き合い、世界を変える仕事を。ARROWSの体現する「ユニークで強い事業を生む」ための経営哲学

「先生から、教育を変えていく。」をビジョンに掲げ、学校教育の変革を推し進めるARROWSでは、各業界のトップ企業と提携して最新の授業を無料で提供する「SENSEI よのなか学」の国内でのさらなる拡大と、会社の将来的な海外展開を見据え組織拡大を図っています。急成長に伴い、新たなメンバーを求めています。同社の現在地や目指しているところは何か。創業者で代表取締役社長の浅谷治希さんに詳しく聞きました。

ARROWS代表取締役社長_浅谷インタビュー

事業、意思決定…すべては「先生起点」から始まる

――右肩上がりの成長を遂げていますが、まずは現状について教えてください。

ARROWSの中核事業である「SENSEI よのなか学」は現在、累計で全国100万人の小中高生に届けられています。それだけ、現場の先生が申し込みをして私たちの教材を使ってくださっているとい うことです。

この事業は、先生が教えたくても十分に教えることが難しい領域を、どのように支援するかを考えた結果生まれました。

先生が抱える様々な課題の中でも、最も根源的なものが「もっと良い授業をしたい」というもの。しかし、実務に追われる中で、準備のために十分な時間が割けないのが常です。また、昨今の社会の急速な変化に対応しようと、文部科学省では学習指導要領を定期的に改訂していますが、現場の先生がその要請に応えるために知識・経験が追いつくのは困難な状況があります。

もちろん教科書も定期的に改訂されますが、4年に一度。世の中の変化に教科書が追い付かないことは先生が補足する必要がありますし、また教科書では軽くしか触れられていなくても、先生がぜひ子どもたちに伝えたいと思った重要なテーマについては、先生が時間をかけて準備する必要があります。

一例を挙げると、2022年度からは高校の家庭科に金融教育が組み込まれ、家庭科の先生が金融教育を行うことになりました。これにより、元々想定されておらず、かつ専門性が必要な領域を、先生たちは自分たちで学び、教えていかなければならなくなる。教科書では不十分だと感じている先生も多く、新しい授業を先生がイチから作るとなると、かなりの時間が必要になります。ただでさえ忙しい先生にとっては大きな負担です。

ARROWSが行った金融教育に関する調査「金融教育における学校の課題」
※対象:高校家庭科教員77名/調査期間:2022.11.30-2022.12.15/インターネット調査

そこで当社が各業界の最前線の企業と提携し、授業で使える完全オリジナルの教材を制作して無料で提供することにより、先生は30分程度の準備をすれば、最先端の授業を行うことができます。金融教育であれば、金融機関とコラボレーションした教材提供により、きちんと裏付けの取れた信用できる情報を子どもたちに伝えられるということですね。

ポイントは、民間企業から収益を得るという全く新しいビジネスモデルにあります。他社で展開されてきたこれまでの教育事業は、先生や学校、あるいは保護者から対価をいただくのが一般的でした。

しかし、例えば学校や教育委員会から対価をいただく場合、各地の学校や教育委員会を一カ所ずつ訪問して提案していく必要があり、全国の学校へ導入するためには、大量の人員を動員して何年もかけなければ実現できません。より早いスピードで改革を進めていくためにはお金の流れから見直す必要があると考えています。

企業にとっては、授業づくりに協力することにより、小中高生に自社の魅力や価値を伝えることができるというメリットがあります。

新たな資金供給の流れをつくったことで、実現スピードが格段に速まり、先生がその教材を使いたいと思った瞬間に導入することが可能になりました。

――事業立ち上げ当初から順調だったのでしょうか?

「SENSEI よのなか学」は2017年にリリースしたものの、当時は1万人の子どもたちに届けるのも必死でした。それから4年ほどで累計100万人まで届けられるようになったのは、先生の抱える課題をしっかり解決してきたことの1つの証だと思っています。先生から直筆で御礼の手紙をいただく機会も多く、そうした反響は非常に嬉しいですね。

全国の先生たちからいただいたお礼のお手紙。ARROWSメンバーの原動力にもなっている。

私たちは2013年の創業から一貫して、子どもたちの教育を支える小中高の学校の先生を支援してきました。最初に立ち上げたのは、先生の抱えている様々な課題に対応できるように、学校や地域の垣根を越えて先生同士で情報共有や意見交換ができるプラットフォーム「SENSEI ノート」。今では民間企業で日本最大級のプラットフォームにまで成長していますが、より深い課題に関与していこうと「SENSEI よのなか学」を始めたという経緯です。

「SENSEI ノート」の会員基盤により、先生の課題を定性・定量の両面から捉えることができるため、現場ニーズをしっかり把握した上での価値提供が実現できたとも言えます。


――「先生から、教育を変える。」というビジョンが示すように、先生にフォーカスしているからこそ生まれた事業なのですね。

ARROWSの最大の特徴は「顧客起点」です。学校教育の分野には、先生や児童生徒のほか、保護者、教育委員会、文科省などたくさんのステークホルダーがいますが、その中で、私たちは顧客を現場の先生に絞っています。何かを意思決定する際、とにかく先生に向き合うという共通認識があるから、迷わなくていい。

それはそのまま、ARROWSを創業したきっかけでもあります。教育を変えようとしても、従来のような行政へのアプローチでは、法律や制度を変えたり、予算を確保する必要性があり、容易ではありません。そもそもそのアプローチ自体が間違っているのではないかと思っていた時に、高校の先生をしている友人から仕事のやりがいについて話を聞く機会がありました。

その時、先生は世の中において重要な役割を果たしている存在だと再認識し、行政的な側面からではなく、個々の先生を直接応援する仕組みができないかと考えたことが、ブレイクスルーにつながっています。

KGIは「売上・利益」ではなく「授業を届けた子どもたちの人数」

――ビジョンには「教育」という領域を示している一方で、ミッションには「世界的課題に取り組む、知性の体現者であり続ける。」とあるのは、どのような意図があるのでしょうか?

このミッションには、ARROWSのスタンスが反映されています。最初から「お金になるかどうか」という価値判断でビジネスに取り組もうとすると、ユニークな事業は生まれません。それよりも、まず世の中で非常に重要な課題を解決すると決めて、ビジネスモデルは後から必死に考える、というのが私たちの姿勢です。

そのため、他の会社であれば大変すぎて躊躇してしまうような課題に挑むので、非常にユニークで、強い事業が生まれます。もちろん立ち上げは大変ですが、大変なことに挑むからこそ面白い。逆に、たくさんの競合がいる中で一番になることは、あまり好みません。

むしろ、他にやってくれている人たちがいるのであれば、その人たちに任せて、自分たちはまだ世の中で解決されていない課題に取り組んだ方が、世の中の価値の総和を増やすことができます。私は、そうした未解決の課題を解決することが「知性」だと思っており、そのために自分の時間を使いたいですし、同じような思いを持った仲間を求めています。

――大変なことに挑むという言葉がありましたが、ARROWSのバリューにも「先生ファースト」に加え、「限界こそ出発点」「摩擦が熱になる」を掲げています。ちょっとハードな印象を受けますが、文字通りに受け取ればいいのでしょうか?

「限界こそ出発点」は、「残業を月200時間しようぜ」というような意味ではありません(笑)。競合がいる事業であれば、他社をベンチマークにして頑張ることができますが、私たちは他に比較対象のない事業を行っている会社なので、自分たちで「ここまでかな」と決めた時点で成長は止まってしまいます。ですので「自分たち自身を超えていこう」という意味を込めて「限界こそ出発点」としています。

「摩擦が熱になる」は、「それぞれがプロフェッショナルの立場で適切にぶつかりましょう」ということを言っています。教育事業に集う人材には温厚な方も多いので、合意形成する過程で互いに牽制し合い、中途半端な生煮えの結論になりやすい。そうではなく、各自が自分の役割に基づいて意見をはっきり言い合うからこそ、より良いもの、より新しいものを生み出すことができます。

なぜこれらのバリューが成立するかというと、社員全員が顧客起点に立っているからです。何かに迷ったり、ぶつかったりすることがあれば、「それは先生やその先の子どもたちにとってどうなのか」とシンプルに考えればいい。皆のベクトルが一致しているからこそ、本質的な議論ができるのだと思います。

私たちは基本的に、学校の先生や子どもたちに価値提供できる事業しかやりません。その意味で企業さんによっては取引をお断りするケースもあります。また、「SENSEI よのなか学」のKGI(経営目標達成指標)は売上や利益ではなく、授業を届けた子どもたちの人数になっています。逆に言うと、あるプロジェクトをすることで売上は上がっても子どもの人数につながらなければ提案は否決されます。

こうしてミッション・ビジョン・バリューに基づいて経営指標を設計することで、歪みがなくなり、何のために仕事をしているのか実感を持つことができ、全員が正しい方向に向かえます。だから、どのチームもすごく楽しそうに仕事をしていますね。

ARROWS代表取締役社長_浅谷インタビュー

働き方に妥協せず、世界を変えるための仕事を

――今後の展開についてお聞かせください。

直近の目標は2025年度に、年間で100プロジェクト・100教材・175万人の子どもたちに授業を届けることです。小中高生は全国に約1200万人いますので、その10%弱に私たちの教材を使っていただくイメージですね。これを実現するために必要なメンバーを募集しており、2024年度は約40名の採用を予定しています。これから事業拡大を一気に進める面白いフェーズです。

将来は「SENSEIよのなか学」を国内でさらに拡大するとともに、海外展開も進めていく考えです。「SENSEIよのなか学」は先生の「教える」課題を解決する事業ですが、学校教育には他にも様々な課題があるので、それらの課題を解決するための新たな事業も今後手がけていきます。

――ARROWSにはどのようなマインドセットの人が合うと思いますか?

「世の中の課題をビジネスを通じて解決していきたい」「ビジネスで世界を変えたい」という高い視座を持っている人です。理想を掲げるだけでなく、継続性を担保して、より多くの人に価値貢献することは、ビジネスだからこそできると思います。また、フルパワーでやらなければ乗り越えられないことに挑戦できることは、大きなやりがいにつながります。

ですので、必ずしも教育に興味がなくても構いません。私たちは世界を変える1つの方法として教育分野で取り組んでいますので、同じように、世界を変えるために教育に可能性があると思っていただければ結構です。

現在のメンバーは、それぞれの領域で活躍してきたいわゆる「仕上がった人」ですね。学校教育の分野ということで「給料は安いのでは?」と思われるかもしれませんが、前職が大企業であっても、給料は基本的に前職から据え置きにしています。そうすることで、より強い事業モデルをつくらなければいけないし、利益も上げなければいけないというように会社としての強度も高まります。

ARROWS集合写真

やりがいがあり、良い仲間がいて、報酬もしっかりとした、全てにおいて二重丸の会社経営を徹底的に考える。「限界こそ出発点」というバリューの通り、経営にもそういう負荷をかけることによって、新しい価値を世の中に提供することができると考えています。


profile

浅谷治希プロフィール

浅谷治希|代表取締役社長

2009年に慶應義塾大学経済学部卒業後、ベネッセコーポレーションに入社。女性向け大型ポータルサイトの集客に従事。
2012年8月に株式会社Blaboに入社。 2012年11月に開催されたStartup Weekend Tokyo大会で「SENSEI ノート」を立ち上げ、優勝。その後開催されたGlobal Startup Battleで世界112チーム中8位に入賞。同社を退職後、2013年2月に株式会社LOUPE(現:株式会社ARROWS)を設立。世界経済フォーラムの組織であるGlobal Shapersに2015年選出。趣味は登山・ハイキング・読書・映画鑑賞。